狂信者 江上剛
久しぶりに江上氏の本格的な経済小説です。
AIJの事件をモデルにした年金基金の破綻物語です。
37歳でユアサ投資顧問代表の湯浅晃一郎は、
その話し方、情熱、知識すべてが聞き手を魅了し、
何ら知識のない年金基金の役員らを取り込み
巨額の金の運用を彼の会社に託していました。
あり得ないパフォーマンスによる運用成績、
どんな経済事情にも関係なく驚異的な利益を
出していました。
そんな湯浅氏に突然インタビューの仕事が舞い込ん
だ主人公の堤慎平は、彼に突然スカウトされます。
年収は最低でも1千万、フリーの堤には願っても
いない話で、即座に応諾します。
堤の彼女、産業日報新聞の経済部記者、国本美保
はちょうど湯浅の会社を調べていたところでした。
このスカウトは、罠なのか。
堤は何を企んでいるのか。
年金基金を舞台にした巨額詐欺事件を江上氏らし
い視点で描いています。
官僚の天下り、接待、役員への攻勢と、誰をも魅
了する湯浅の語り、風貌、宗教的なものも感じる
怖さがあります。
人間の弱点をこれでもかと突いていく湯浅の策略は
凄いとしかいいようがありません。
自身の金でもなく、安易な方法で巨額の運用益が出
る、そして過剰なまでの接待、人は楽な道へと簡単
に、それは最初は怪しいと疑う気持ちがあっても、
慣れと信仰することで忘れていき行く先は結局破滅
です。
結末も意外な展開で、とても面白い作品でした。
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